女・仕事

井上理津子 著【著書紹介
1985年発行 長征社

あたりまえに仕事をし、普通に生きる92人〈女の現場〉。

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著者メッセージ

副タイトルに「あたりまえに仕事をし、普通に生きる92人〈女の現場〉」。
発刊の1985年は、男女雇用機会均等法施行の前年です。

「女の時代、女の時代と言うけれど、私はもっと前から働いているよ」といった、市井の女性にインタビューし、"仕事と生活と意見"を聞きたいーーと、22人の友人・知人に共著を頼み、編んだ、井上の最初の本。商店主、助産婦、相談員、クックメイド、農業、海女、保母、教師、編集者、保険外務員、病院付添婦、尼僧、歯科医、墓守…。さまざまな職種の92人が登場しています。しかも、北海道から九州まで全国にわたって、です。

全員が、戦時体験者でした。しかも、自身の戦争体験とその後の道のりが無縁でなかった。  
飲食店の掃除婦をしておられた方(当時70代)は、戦中に旧満州でタイピストをしていたという。婚約者と離ればなれになり、命からがら引き揚げてきた。婚約者は亡くなったものと思い、「あなたに心の操を捧げたのだから」と、写真1枚を胸に女ひとり遮二無二働いてこられたのだが、42年後にその婚約者が生きていて、家庭を持ち、孫までいることが分かったと、掃除のコツの話の傍ら教えてくれました。

海女さんに「この仕事についたきっかけは?」と(今思うに、何も分かっちゃいなかった)質問をすると、きょとんとされた。ややして、「この地の習慣でありましたからのお」と答えられたことも忘れられません。

女性問題のジョの字とも無縁の市井で、身を粉にして働いてこられた女性たちの肉声は、今読んでも胸に迫るものがあります。「戦後」が浮かび上がります。

文庫本にしてくださる版元さん、ないでしょうか。

著書紹介